私と親の間には(その2)

小さい頃、私は計算が大の苦手でした。
小学1年生の時、いちいち指を使って計算していました。
ですから、授業中に先生に
「○○さん、指を使わずに計算できないのですか?」
とよく皆の前で言われていました。


私は母に算盤を習いたいと言いました。
計算に強くなりたかったからです。
けれども母は
「まだ小さいからもっと大きくなってからでええ」
と取り合ってはくれませんでした。


授業参観の日、授業は算数でした。
教材のおもちゃのようなお金を使って授業が始まりました。
私は『お金』を見た事も触ったこともなかったので、いったい
何をやっているのか皆目授業内容がわかりませんでした。
先生が質問をして、クラスメイトが全員勢いよく手を挙げる中で
私ひとりだけが『お金』をみつめてじっと座っていました。
先生が
「○○さん、わからないのですか?」
と私に尋ねました。
私は素直に
「はい、わかりません」
と答えました。
先生は呆れたという顔をされて、私を無視して授業を進めていきました。その授業中、ただ、ずっと座っているだけでした。


帰宅すると母が
「あんな恥ずかしいことはなかった。教室から逃げ出したかったわ」
と私に言いました。
私は内心
(だから計算が苦手だと言ってたのに…)
と思いました。


その日から母の特訓が始まりました。
学校から戻ると、母が広告の裏に書いた計算式を解かされました。
全問正解するまでは許してもらえませんでした。
その特訓である程度までは計算ができるようになりましたが、
2年生に上がった時に、ついに算盤を習いに行かせてもらえました。
自分でやりたいと希望したことだったので、一生懸命練習して
最終的には初段までいきました。
その能力は仕事に活かすことができました。
そういう意味では、算盤を習わせてくれたことには感謝しています。
ただ、もう少し、子供の話に耳をかたむけてほしかったと思っています。