縁〔えにし〕の不思議

私が20代の頃、ご近所に一人のおばあさんがおられました。
怪我をして退院してきてから、リハビリの為でしょうか。
毎日ゆっくり歩いてだんだん距離を伸ばしていかれました。
道路を挟んで反対側の町会の方なので、お名前もどんな方なのかも
全然知りませんでした。
しかし、確実に距離を伸ばし、やがて我家の前まで到達されました。


家の前には母が育てている植物の植木鉢やプランターがおいてありました。
ある日、その内の1つが綺麗な花を咲かせました。
歩く練習をされていたおばあさんは我家の前まで来られると、
何を思われたのか、咲いたばかりの花をポキッと手折ると
持って帰っていかれました。


おばあさんは花が咲く度に手折ると持って帰ってしまわれます。
呆気にとられた母と私でしたが、なんだか可笑しくなって笑ってしまいました。
噂によるとその方は少し痴呆症になられているとのことでした。
やがてその方が亡くなり、歩く姿をお見掛けする事がなくなりました。


数年後、私はお見合いをする事になりました。
私にとって初めてのお見合いでした。
会ったその時から意気投合し、話がトントン拍子に進み、結婚する事が決まりました。
結納の日、仲人を立てずに、主人と主人の両親が結納の品を持ってやって来ました。
その時に、主人の母から、この近所に親戚のおばさんがいて以前来た事があり、
うちがその近くだったので来てみて驚いたと話されました。
よくよく話を聞いていくと、なんと、あの花を持って帰ってしまったおばあさんの事でした。
主人は義母と親戚の家に来た時に、我家の近くに車を止めていました。
出会うずっと前に主人とはニアミスをしていたのです。


なんだか不思議な縁だなあと、その場で皆で話したのでした。